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    性能が劣悪なビルをあぶり出せ「省エネ建築」後進国ニッポン(前編)

    低炭素ではなく脱炭素、省エネ建築からZEBへ――。地球温暖化を防ぐ取り組みは、世界の潮流が大きく変わり始めている。日本は追いついているのか。CSRデザイン環境投資顧問の堀江隆一社長に、建築や不動産に焦点を当てて解説してもらった。今回はその前編。

     

    図1

    堀江 隆一(ほりえ りゅういち) CSRデザイン環境投資顧問代表取締役社長
    1964年東京都生まれ。東京大学法学部卒、カリフォルニア大学バークレー校MBA。日・米・欧の金融機関を経て、2010年に不動産のESG投資や環境不動産に関する助言・調査を主業とするCSRデザイン環境投資顧問を共同設立。国連環境計画金融イニシアティブ不動産WGアドバイザー、国土交通省や環境省などの関連委員会の座長、WG長など(写真:都築雅人)

     

    —— 最初にCSRデザイン環境投資顧問の業務内容について教えてください。

    当社は2010年に設立した独立系のESG(環境=Environment、社会=Social、企業統治=Governance)のコンサルティング会社で、セクターとしては不動産とインフラストラクチャーに特化しています。「ESG投資」という言葉は、会社設立時はまだ一般的ではなく、当初は主に単体のビルプロジェクトの環境性能に関する評価を行っていました。近年はESG投資に関するコンサルティング、つまり単体のプロジェクトではなく、不動産会社や不動産ファンドの企業・ポートフォリオ単位のESGに関するコンサルティングが事業の8割程度を占めます。

    具体的には、不動産会社や不動産ファンドの評価指標として世界的に活用されている「GRESB(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)」の日本市場におけるアドバイザーとしての立場から、GRESBの評価を高め、国内外からの投資が期待できる体制や取り組みについてアドバイスしています。環境不動産の認証制度としては、日本のCASBEE(建築環境総合性能評価システム)、米国のLEED、英国のBREEAMなどがありますが、不動産会社・ファンド単位のベンチマークとしてはGRESBが事実上唯一のものです。

    GRESBの評価においては、不動産は現物が存在するため、通常の株式投資のESG指標に比べると必然的に省エネなど「環境」に重点が置かれる傾向があります。自社の取り組みに加え、テナントやPM(プロパティ―マネジメント)会社を含めたサプライヤー、地域コミュニティーといかに協働し、グリーンリースやサスティナブル調達など、環境や社会への関わりを醸成するかが課題になります。

     

    —— グローバルな視点で捉えた省エネ建築の動向に変化はありますか。

    いわゆるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を目指す政策は各国で進んでおり、最近は国ベースだけでなく企業独自の取り組みも増えています。地球温暖化を防ぐための国際的な枠組み「パリ協定」では、2℃目標(産業革命以前と比較して気温上昇を2℃未満に抑えること)が注目されがちですが、それ以上に重要なのは、21世紀後半に人為的な温暖化ガスの排出と森林などの吸収(マイナス排出)を均衡させて「正味の排出量」をゼロにする、つまり「脱炭素」に向けた取り決めです。

    もし、世界が2℃未満を本気で実現しようとするなら、現在埋蔵されている化石燃料の3分の2は使用できなくなります。不動産・建築の文脈で語るなら、炭素排出抑制の性能が劣る建物は、大幅に価値が毀損する「座礁資産」となり、投資引き揚げの対象となる可能性が高くなります。英国ではすでに、省エネ性能が低い建物は賃貸禁止です。

    企業の脱炭素を巡る動きには、使うエネルギーを全て再生可能エネルギーで賄うことを目指す企業連合「RE100」への加盟表明があります。直近で世界で約140社、日本でも10社が加盟しています(2018年7月時点)。

    もう一つ、金融の大きな動きとしては、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)があります。気候変動が実際に起きた場合の財務上のインパクトを企業が開示する試みで、2017年夏にガイドラインが発表されました。欧州においては、フランスが以前から同様の情報開示を法律で義務化していて、他の国もこれに倣い同調する動きがあります。日本でも3メガバンクと3損保などがTCFDの賛同を公表しています。

    いずれにしても、低炭素ではなく脱炭素の流れが顕著です。建築物に置き換えるなら、世界は「省エネ」を超え、Nearly ZEBなどを含めたZEBへのニーズがますます高まると考えられます。

     

    図2

    不動産はESG投資のうち、「E:環境」に重点が置かれる傾向がある(資料:CSRデザイン環境投資顧問)

     

    環境性能ラベルの義務化

    —— 日本の立ち位置をどう見ていますか。

    脱炭素化をリードしているのは欧州で、日本はその流れに乗りつつある段階と見ています。TCFDについてもリードしているのは欧州です。これは再エネの普及度合と表裏一体なので、日本はやや遅れていることは否めません。

    まず、日本では、建築物の環境性能ラベルの普及が急務です。欧州連合(EU)域内では、EU指令でエネルギー性能証書(EPC)の7段階の評価ラベルが床面積2000m2以上の非住宅で義務化されています。つまり2000m2以上の建物はすべて環境評価されているのです。オーストラリアでもNABERSという環境性能認証制度があり、義務化されています。

    実際は、こうした認証制度の普及は第一段階に過ぎず、各国では、次の段階としてラベルを活用したさまざまな政策がスタートしています。オーストラリアでは、賃貸や売買の際にはNABERSの格付けを提示し、賃貸広告にはNABERS評価を明示することを義務づけています。NABERSは6つ星が最高ランクですが、政府機関が入居するのは4.5星以上を獲得しているビルだけです。

    また、先に少し触れましたが、英国はさらに厳格です。同国のEPCのA~G、7段階の格付けでFとGのビルは、2018年4月以降は賃貸することが違法になりました。罰則もあります。

    日本では2016年から始まった「建築物省エネ法に基づくエネルギー消費性能の表示制度」、代表的なものにBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)がありますが、まだ努力義務です。現状では欧州やオーストラリアの第一段階手前と言えるでしょう。

     

    図3

    各国の環境性能ラベルと活用法(資料:CSRデザイン環境投資顧問)

     

    —— BELSの課題は何でしょうか。

    日本のBELSとEUのEPCを比較すると、BELSの1~5つ星はEPCの「中の上」を細分化しているイメージがあります。英国のAランクのビルは、日本のNearly ZEBとほぼ同等の性能で、その上にプラスエネルギーのA+のランクも設けられています。プラスエネルギーとは、消費するエネルギーがそこで生み出されるエネルギーよりも少なくなることを指します。

    BELSではZEBは5つ星に含まれますが、最上位はZEBにするほうがわかりやすいと思います。一方、日本では英国のE、F、Gに相当するBELS取得未満のランクづけがありません。性能が劣悪なビルをあぶり出し、それらの性能を引き上げるには、より評価範囲が広いラベルが必要だと私は考えています。

    また、BELSは建物の性能値に基づくラベルなので、所有者やテナントの運用改善があっても、ランクが上がることはありません。エネルギー消費やCO2排出の実績値に基づくラベルもあったほうが良いと思います。

    テナントがビルを選ぶ場合、建物のスペックが分かればいいのでBELS指標は有用です。しかし、投資家側の視点で見ると、建物はテナントが入居した状態で売買されるので実績値のほうが重要なんですね。EUのEPCも、国によって性能値と実績値の違いはありますが、実績値に移行する流れが主流です。オーストラリアのNABERSは実績値ですし、米国のEnergy Starも実績値に基づく指標です。

    実績値の把握に関して、日本は省エネ法や自治体の条例のベースがあるので海外よりも進んでいます。ただ、法律以上の国際基準に沿った削減目標を設定し、達成度を開示するのはまだこれからです。実績値に基づく指標は、大規模複合ビルなどでは補正が難しいと言われていますが、面積や用途、業種ごとに区分などすれば対応は可能ではないかと思います。

     

    —— なるほど。世界は実績値を重視する傾向が強まっているのですね。

    そうです。GRESBでも、不動産会社や不動産ファンドのエネルギー消費量やCO2排出量、その削減値など、すべてポートフォリオベースの実績値で投資判断されます。建物単体のスペックについてはほぼ問われないと言っていいでしょう。実際には世界的に見て、不動産会社や不動産ファンドに限らず、気候関連財務情報開示を行い、2℃シナリオでどのようなリスクがあるのかを示す流れにあります。

     

    —— 日本の企業は対応が十分でしょうか。

    企業が自社のエネルギー消費量やCO2排出量を把握し、パリ協定の2℃目標に向けてどれだけ削減するか。そこで設定される目標がSBT(企業版2℃目標)です。

    パリ協定では、各国が目標を立てていて、日本は2013~2030年に温室効果ガス26%削減の目標を掲げています。しかし、現実には各国の目標を積み上げても2℃目標には届きません。では、それを達成するために企業に求められる目標は何か。簡単に説明するとこれがSBTの考え方です。

    日本の企業は省エネ法に基づき、努力義務として、毎年、原単位1%削減が求められています。しかし、誤解を恐れずに言えば2%削減くらいのペースで進めないと、2℃目標達成は難しい。日本企業も2℃目標に沿った目標設定をして、それに基づき達成度の進捗状況を開示することが求められるようになるでしょう。

    一部の先駆的な企業はすでに取り組んでいます。製造業が先行していますが、建築業界や不動産業界も早々に取り組む必要があります。(後編に続く

     

    (日経 xTECH「省エネNext」公開のウェブ記事を転載)


     

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