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    震災で見た風景が「防災ZEB」の原点 土浦北インター自動車学校 校舎棟(後編)

     2021年1月から使用開始した「土浦北インター自動車学校 校舎棟」は、環境省の補助金を受けた「防災ZEB」の施設だ。地域の防災拠点としても機能するNearly ZEBの建物とした狙いは何か。前編に続き、関係者が計画の特徴を語る。

     

    「土浦北インター自動車学校 校舎棟」の全景。梁間(はりま)8.4mの切り妻屋根の棟が6つ並ぶ。今後は、青いシートを載せた旧校舎を建て替えてレストランと合宿所を新設する(写真:吉田 誠)

     

    新しい校舎棟は、地域の防災拠点を兼ねた建物としています。なぜ、こうした施設にしたのでしょうか。

     

    皆川充氏(インター・アート・コミッティーズ代表):きっかけは、東日本大震災後の経験でした。震災直後は合宿教習の変更手続きなど様々な対応に追われましたが、これらが一段落した2011年5月に、被災地支援のため岩手県陸前高田市内の自動車教習所を訪れたのです。

     

     周囲はすさまじい状況でしたが、高台に位置する教習所は無事でした。さらに、自衛隊の給水車が集結し、支援物資の仕分け場やボランティアの受付窓口として利用していました。しっかりしたコンクリート地盤でつくられた自動車教習所は、防災拠点として優秀であることに気づいたのです。

     

     今回の計画に当たり、教習の場であると同時に、地域のライフラインをつなぐ防災拠点ともなる自動車学校をいかに体現していくかを考えました。調べていくと、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)というものがあるという。防災拠点とZEBを組み合わせた、環境省の「地域の防災・減災と低炭素化を同時実現する自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業」の存在も知りました。自分たちの思い描く理想が、国の施策に近い結果となりました。

     

     今回の校舎棟は計画の第1期に当たり、22年に向けてさらにレストランや合宿所を建設する予定です。全ての施設が完成した後、地域とどう関わっていくか。土浦市とも協議をしながら、取り組みを積み重ねていきたいと思います。

     

    延べ面積1000m2弱の木造建築をZEBにするのは難しかったのでしょうか。

     

    須田和正氏(かなで建築設計代表):計画の途中で、防災ZEBを目指すという話になりました。ほぼ当初の設計のままで、試算してZEBもいけそうだと判断しました。最初は「再生可能エネルギーを含む1次エネルギー消費量の削減率50%以上75%未満」のZEB Readyを想定していましたが、最終的には「同75%以上100%未満」のNearly ZEBになりました。特に無理をしたわけではなく、できる範囲の断熱化や高効率設備の導入をしています。

     

    皆川氏:自動車教習所は比較的エネルギー消費が少ない点も、ZEB化が容易になった原因かもしれません。いずれにせよ省エネより快適さの確保が重要と考えており、基本的に教習所としての機能を優先しました。

     

    教室内観。登り梁(のぼりばり)と丸構の下弦材で構成した張弦梁を架けて、梁間8.4mの大空間を設けた(写真:吉田 誠)

     

    木造に際して特に意識した点はありますか。

     

    遠藤雅宏氏(ナイス木造建設事業本部木構造事業部事業部長):近隣の森林組合、製材所、プレカット工場との連携を生かしつつ、できるだけ地域産の木材を使いました。地域との連携により、地域経済が活性化するのはオーナーの強い希望でもありました。

     

    松崎勇太氏(ナイス木造建設事業本部木構造事業部工事部):敷地が広かったため、木材をまとめて現地に搬入することができました。張弦梁トラスも敷地内で組み立ててから建て方を行ったので、迅速に作業を進められました。

     

     もともとトラスの仕様や使用木材の寸法を統一した設計になっていたため、効率的に木材を手配できました。さらに外壁のはめ板のカットから塗装までの工程を工場で行うなどして、現地作業を効率化しました。

     

    光熱費削減で経営を効率化

     

    21年1月から新しい教室での教習を始めたそうですね。利用者の反応はいかがでしょうか。

     

    皆川氏:この地域は冬の底冷えが厳しいのですが、22度程度の暖房設定で十分に暖かいですね。

     

    光熱費は以前の建物と比べてどうですか。

     

    皆川氏:旧校舎の倍程度の広さになったので直接の比較はできませんが、当然安くなるはずです。精査はこれからです。

     

    須田氏:使用電力のおよそ8割を太陽光発電で賄い、残りを電力会社から購入する形を想定しています。試算では、電気代を年間150万円削減できる想定です。

     

    皆川氏:少子化に新型コロナウイルス禍が加わって自動車教習所の経営環境は厳しく、経営の効率化が求められています。そうした状況にあって、光熱費が削減できることは貴重です。これから教習所経営者の見学も多く迎えることになると思いますが、その際には光熱費などのデータも開示していく予定です。

     

    左からナイス木造建設事業本部木構造事業部の遠藤雅宏事業部長、インター・アート・コミッティーズの皆川充代表、かなで建築設計の須田和正代表、ナイス木造建設事業本部木構造事業部工事部の松崎勇太氏(写真:吉田 誠)

     

    (日経クロステック「省エネNext」公開のウェブ記事から抜粋)

     


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