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    国内初の公共施設のZEB改修 久留米市環境部庁舎(前編)

    1990年に建てられた久留米市環境部庁舎が、改修によって1次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスになるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の認証を得た。既存建築物の公共施設では国内で初めて。投資回収期間を試算して目標とする省エネレベルを定め、ごく一般的な技術を組み合わせて改修した。

     

     「とても暑く・寒い建物だったので、一般的な投資でZEB化するのは難しいのではないかという心理的なハードルを持っていた」。久留米市環境部庁舎(福岡県久留米市)の改修を担当した同市都市建設部建築課計画チームの赤坂慎一郎課長補佐と設備課計画チームの清水淳課長補佐は、そう口をそろえる。

     

     オレンジ色の外観が目を引く環境部庁舎は、もともと清掃車の車両基地として1990年に新築された。鉄筋コンクリート(RC)造3階建てで、延べ面積2089m2。1階部分のほとんどは駐車場のピロティーとなっていて、約70人が勤務する執務スペースは2階にある。3階は、小さな建屋を除く屋上部分に52.1kWの太陽光発電設備がずらりと並ぶ。

     

    久留米市環境部庁舎の外観。屋上に52.1kWの太陽光発電設備を並べている(写真:久留米市)

     

     既存建物はほぼ無断熱の状態で、夏の暑さや冬の寒さが厳しかった。改修では、ピロティーに接する2階の床下にウレタンフォームの断熱材を35mmの厚さで吹き付け、延焼ラインにかかる北面以外のアルミサッシの単板ガラスをLow-E真空ガラスに取り換えた。設備面では、ガスエアコンを高効率のパッケージエアコンに更新したほか、全熱交換器や発光ダイオード(LED)照明を導入した。自家消費を主体とする太陽光発電設備の設置に合わせ、89.2kWhの蓄電池も装備した。

     

    1階のピロティー。天井にウレタンフォームを吹き付け、2階床の断熱性を高めた(写真:守山 久子)

     

    開口部まわり。既存のアルミサッシはそのままに、単板ガラスからLow-E真空ガラスに置き換えた。真空ガラスは2枚のガラス間に0.2mm厚さの真空層を有し、高い断熱性を備える(写真:守山 久子)

     

     これらの結果、外皮性能を示すPAL*(パルスター)の削減率BPIは改修前後でおよそ1.1から0.89へと低減。再生可能エネルギーを含む1次エネルギー消費量の削減率も106%のZEBとなった(再生可能エネルギーを除いて同67%)。

     

     改修の総事業費は約1億9000万円。環境省の「地域の防災・減災と低炭素化を同時実現する自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業」の補助金を利用し、市の実質的な負担を約6000万円に抑えた。

     

    「一気に更新」してコストを抑える

     改修計画に際しては、事前に綿密な調査を実施した。

     

     既存建築物のZEB改修に多くの実績を持つ備前グリーンエネルギー(岡山県備前市)に「ZEB化可能性調査」を依頼した。同社は、建物の外皮性能と設備の現状を調べ、ZEB化に必要な改修内容や再生可能エネルギーの導入量を検討。補助金の利用を想定した投資回収期間を試算して、ZEB化が可能と評価した。調査報告を受けた久留米市は、ZEBを目標に据えた改修に踏み切った。

     

     外皮や設備の仕様も細かく調整し、外皮の断熱改修は最小限に抑えた。「WEBプログラムの計算上、外皮の断熱が省エネ効果に大きく影響するのは一定の性能まで。それ以上の性能を目指す際には空調負荷と換気の緻密な計算が効いてくるので、これらを重視した」(備前グリーンエネルギーの山口卓勇事業統括部長)。当初は屋上の断熱改修も考えたが、費用対効果に配慮して除外した。

     

     既存建物の形状も有利に働いた。「形が真四角で、外皮面積が比較的少ない。屋上に広い運動スペースがあったため、ソーラーパネルを多く並べられるメリットもあった」(赤坂課長補佐)

     

     屋上の太陽光発電設備の設置に当たっては建物の構造計算と設備の耐震計算を行い、安全性を確認した。太陽光発電設備の架台を固定するアンカーは保護コンクリートの途中まで打ち込み、その下にある防水層を傷めないようにしている。

     

    屋上の太陽光発電設備(写真:守山 久子)

     

     市の担当者たちにとって、改修計画を通して得た学びは大きかったという。「空調の更新時期に合わせてZEB改修を実施すると、財政面でも効率的だ。RC造建物は、窓ガラスの性能を強化するだけで外皮性能が大幅に向上する。断熱性が高まると空調もダウンサイジングできる」と、環境部環境政策課の境邦匡事務主査は指摘する。

     

     「従来は個別に実施していた空調や照明の更新、外壁の防水工事などの実施時期を調整して同時に行えば、トータルの投資を抑えられる。そのためには環境部局と施設管理部局、営繕部局が互いに連携し、情報を共有していくことが重要だ。これまでは、それぞれの部署があまり連携していなかったことに気づかされた」(清水課長補佐)

     

     ほとんどの設備が稼働した20年12月から21年1月にかけて、光熱水費や太陽光発電量などを実測した。これに基づく試算によると、CO2排出量は年間53tの削減、光熱水費は年間290万円の削減に結び付く。

     

     ZEB化のメリットは、省エネや光熱費削減の効果だけではない。環境部総務の高松英生氏が話すのは、快適性の向上だ。「改修前は、冬にはピロティーに接した床からの底冷えがひどく、室内の温度ムラも大きかった。改修後はこれらもだいぶ収まった。詳細な空調の温度調整ができるようになり、抑えめな設定でもよく効いている」

     

     今後はデータの実測に基づいた運用マニュアルを作成するなどして、より効率的な省エネを目指すという。

     

    建築概要

    久留米市環境部庁舎

    所在地:福岡県久留米市

    地域区分:6地域

    建物用途:事務所等

    構造・階数:鉄筋コンクリート造・地上3階建て

    延べ面積:2089m2

    発注者:久留米市

    設計者:備前グリーンエネルギー(ZEBプランニング、実施設計)

    完成:2021年1月

     

    (日経クロステック「省エネNext」公開のウェブ記事から抜粋)

     


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