補助金を見据えて早めに設計 ザイソウ正木ビル(後編)
- 20/03/13
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住宅で使われる一般的な技術や材料を用いて、木造のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を実現した「ザイソウ正木ビル」。前編に続き、関係者にプロジェクトを解説してもらう。
—— ザイソウ正木ビル(名古屋市中区)はザイソウハウスの本社ビルですね。移転の経緯をお話しください。
伊藤 卓哉氏(ザイソウハウス取締役専務執行役員) グループ会社が建設したビル全体に賃貸で入居しています。もともと周辺の土地は材惣DMBホールディングスグループが所有しており、以前は私たちもそのなかのビルに居を構えていました。その後、いったん熱田神社に近い賃貸ビル(名古屋市熱田区)に移転しましたが、手狭になったので戻ってきました。
ザイソウ正木ビルの北東外観(写真:材惣DMBホールディングス)
—— 建設に当たっては、当初から木造のZEBを目指したのですか。
鈴木 興太郎氏(材惣DMBホールディングス常務取締役・事業統括本部副本部長) 土地活用の面では、階数の高いランドマークとなる建物とする可能性もありました。でも今日の時代背景を考えると、環境に配慮し、木材を扱う当社グループのPRにもつながる木造にするのがよいのではないかと判断しました。今後展開を目指す非住宅分野の木造建築の実績にしたいという狙いもあります。
伊藤 ZEBにするとイニシャルコストは高くなります。それでも、光熱費の削減によって長い目でコスト回収しながら、環境配慮という会社の方向性を示すためにZEBを目指すことにしました。
—— 建物は延べ面積500m2以下の3階建てで、高さ13m以下・軒高9m以下という規模です。
河辺 浩幸氏(加藤設計第1設計室室長) 建築主側から提示された条件を踏まえて、耐火・準耐火建築物としなくてよい規模に収めました。耐火・準耐火建築物は、一般的な材料を用いると木を被覆する必要があり、どうしても木造らしさが失われてしまいます。今回は材木を扱うグループの本社なので、できれば木を使ったことが伝わる建物にしたいと考えました。
ZEBを目指すからには、いくつかランクがあるなかで最も水準の高い完全ZEB(年間の1次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナス)を目標に据えました。ZEBにする場合、屋上に多くの太陽光発電パネルを載せられる平屋建てが有利です。ただこれまでの経験上、3階建てなら比較的容易にNearly ZEBにはできます。初期にシミュレーションした結果、もう少し頑張れば完全ZEBも達成できると判断しました。
普通の製品や技術を使って実現するのが、本来のZEBのあり方だと思っています。今後の普及を見据えた建物をつくるという目標を建築主側と共有していたこともあり、汎用技術を用いた設計としました。
鈴木 一部にCLT(直交集成板)を使っていますが、基本的には一般流通品を用いて、普通にプレカット加工できる内容の計画としています。ZEB化に際しても、ごく基本的な内容を突き詰めた格好です。
河辺 もっと面積の大きな建物の場合はデシカント空調などの導入も考えますが、500m2弱という今回の規模では費用対効果を考えると採用は難しい。まず外皮の高断熱化を徹底し、足りない部分を効率的な設備機器で補い、最後に創エネを加えるという考え方で設計を組み立てています。
建設中のザイソウ正木ビル。屋根全面に23.7kWの太陽光発電パネルを並べた(写真:材惣DMBホールディングス)
実際には、住宅のつくり方をほぼ踏襲しました。住宅はオフィスに比べて格段に高い断熱・気密性能を確保し得るので、それが合理的といえます。
—— これまでも省エネ建築やZEBを多く手掛けているのですか?
河辺 5、6年前から設計事務所として省エネ建築へのシフトを試み始めました。現時点で省エネ基準適合義務の対象となる床面積2000m2以上の建築物の省エネ計算も自社で手掛けています。2013年5月に完成した鉄筋コンクリート造の3階建てのオフィスビルが最初に設計した本格的な省エネビルで、建築環境・省エネルギー機構のサステナブル建築物奨励賞を受賞しました。ZEBは今回が4事例目ですが、木造のZEBも完全ZEBも初めてです。
申請前に見積もりまで完了
—— 建設に当たっては環境省の「ZEB実現に向けた先進的省エネルギー建築物実証事業」の補助金を得ていますね。どういう流れで作業を進めたのでしょうか。
伊藤 18年9月末に着工し、19年2月20日に補助金事業の工事を完成させました。外構など全ての工事を終えたのは19年4月です。入居時期が決まっていたので、設計を含めた工程は厳しかったですね。
河辺 4月にZEB補助事業の公募があり、5月に申請して6月に採択されます。入居期限は定まっていますが、採択が決まらないと工事に着手できません。建築主へのヒアリングに始まる設計作業を本格化したのは18年3月末以降です。設計と設計内容の省エネ検証をしながら、補助金の準備を並行して進めました。補助金の申請時に金額を書くので、事前に見積もりを取る必要があります。通常より前倒しで全体の図面を作成することが求められます。
もっとも補助金の申請時には本当に採択を受けられるかどうかわかりません。仮に補助金を得られなかった場合には、太陽光発電パネルを減らすなどして当初目指したZEBのランクを落とすことも想定していました。
—— 建物は南北に長い形状で、東西面に大きな開口を設けています。熱負荷の面では不利ですが、使ってみていかがですか。
伊藤 計画時には、日射を遮蔽するため一部の窓の外に植栽のカーテンや外付けブラインドを設置することも考えましたが、コストが高かったのであきらめました。
ただ、夏に朝日が差し込む時間は1、2時間程度です。意外に熱が蓄積せず、それほど影響を感じません。最上階の3階にある事務室でも、社員から夏暑いというクレームは出ていません。
左からザイソウハウスの伊藤卓哉取締役専務執行役員、材惣DMBホールディングスの鈴木興太郎常務取締役・事業統括本部副本部長、加藤設計の河辺浩幸第1設計室室長(写真:守山 久子)
(日経クロステック「省エネNext」公開のウェブ記事を転載)
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