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バブル期の鉄骨造ビルをZEB改修 棟晶新社屋(前編)

 札幌市に拠点を置く住宅会社の棟晶が、築30年の建物をZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)に改修して新社屋とした。湾曲した大開口に内窓を新たに設け、小型化した地中熱ヒートポンプを冷暖房に利用するなどの工夫を重ねている。

 

 注文住宅などを手掛ける棟晶(札幌市)の新社屋は、大型量販店やロードサイド飲食店が並ぶ札幌新道沿いに立つ。築30年の鉄骨造建物をZEB改修し、2020年9月に完成した。1次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスになるZEBを達成しているのが特徴だ。

 

 「新社屋をZEB化することは当初から考えていた。最初は木造の社屋を新築するつもりで土地を探したが、今の札幌の不動産市場には更地がほとんど出てこない。最終的に立地の良い現在の建物付き土地を購入し、既存建物を改修することにした」。移転の経緯について、棟晶の齊藤克也常務取締役はこう話す。

 

 3階建ての既存建物は、バブル期の1990年に完成した。構造上の問題は生じていないが、温熱環境に対する配慮はほとんどなかったため大幅な性能向上を施した。改修の基本プラン設計は、同社の高断熱・高気密住宅づくりでコラボレーションしてきた西方設計(秋田県能代市)の西方里見代表取締役に依頼した。

 

 既存建物は、扇形の外壁部分を湾曲したガラス面で覆うという特徴的な外観を持つ。改修では、道路に面した外壁部分の仕上げをタイル張りから厚さ30mmのカラマツ張りに替えて外観を一新させた。

カラマツ張りに一新した棟晶新社屋の外観。扇形の建物部分は、南西に開いたアール状の大開口を持つ(写真:棟晶)

 

湾曲した大開口に内窓を新設

 一方、建物の断熱化は内部空間側で処理している。外壁のウレタン吹き付け断熱は、もともと厚さ20mmだったものに厚さ120mmを吹き増した。

 

 象徴的なのは、湾曲したガラス開口に沿って新設した大きな内窓だ。既存のガラス開口は、熱負荷の面で弱点になっていた。複層ガラスとはいえ熱を伝えやすいアルミサッシを用い、さらに南西に向けて大きく開いていた。

 

 この吹き抜け空間に柱と横架材を組んだ格子を立て、トリプルガラス樹脂サッシのフィックス窓をはめ込んで内窓とした。既存のアルミサッシと新設した内窓の間にはハニカム断熱ブラインドを設け、断熱と遮光の役割を担わせている。その他の各室の窓にも全て、樹脂サッシの内窓を取り付けた。

大開口のある吹き抜け空間。湾曲した既存サッシの内側に、自立する格子を組み上げて樹脂サッシをはめ込んだ(写真:棟晶)

吹き抜け空間の内窓を見上げる。既存サッシとの間にハニカム断熱ブラインドを組み込んだ(写真:守山 久子

 

 外壁をカラマツで覆った以外はほぼ室内側の工事に集約したのは、建築確認申請が不要な範囲で改修を進める狙いもあった。

 

 「確認申請をすると、大規模な対応が必要になる可能性があった。例えば、新築時には防火規制がかかっていない地域だったが、その後、準防火地域に変わっている。そこで、躯体(くたい)には手を付けず、床面積も新築時と変わらないようにするなど改修範囲を見極めて計画した。完成後に増設した可能性のある床面も取り外して吹き抜けに戻し、確認申請時の状態にしている」(西方設計の西方代表)

 

小型化した地中熱ヒートポンプを導入

 設備面でも様々な工夫を盛り込んで省エネルギー化を図った。

 

 暖冷房の熱源に採用したのは小型の地中熱ヒートポンプだ。ダクト式エアコンに利用するほか、3階の執務室では天井のパイプに17度の温冷水を流す放射暖冷房を導入した。これらと全熱交換型第1種換気設備を組み合わせ、室内の空気環境を効率的に整えた。

3階の執務室では、天井のパイプに地中熱から採熱した温冷水を流して放射暖冷房に活用(写真:棟晶)

 

 小型の地中熱ヒートポンプは棟晶が北海道大学と共同で開発したもの。「安定した地中熱を利用するため省エネ面で有効だが、コストがかかる。普及には小型化と、それに伴う低価格化が必須だ。採熱利用の方法を工夫し、従来はボーリングの深さが300mほど必要だったのに対して6mの深さで対応できるシステムを開発した。一般的な規模の戸建て住宅なら、カーポート1台分の広さがあれば地中熱を採取できる」と齊藤氏は話す。

 

 創エネルギーは、屋上と西側外壁に設けた合計23kWの太陽光発電パネルで賄う。外壁にも取り付けたのは、屋上のパネルが稼働しなくなる積雪時も一定の発電量を確保するためだ。外壁の太陽光発電パネルは、周囲からの照り返しによる効果も見込んでいる。

西側の外壁に設置した約6kWの太陽光発電パネル。屋上には約17kWを搭載している。トリナ・ソーラー・ジャパンの製品を使用(写真:守山 久子)

 

 建築研究所のWEBプログラムの計算では、再生可能エネルギーを含む1次エネルギー削減率が102%(再生可能エネルギーを除くと同71%)となった。20年中には、24kWの蓄電池と2台の電気自動車によるV2H(Vehicle to Home)を設置する。稼働後には、「理論上はオフグリッド化を果たせる」(齊藤氏)予定だ。

 

建築概要

棟晶新社屋

 

所在地:札幌市東区

地域区分:2地域

建物用途:事務所等

構造・階数:鉄筋コンクリート造・地上3階建て

延べ面積:430.56m2

発注者・施工者:棟晶

設計者:西方設計

完成:2020年9月

 

(日経クロステック「省エネNext」公開のウェブ記事から抜粋)

 


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